制服でプールに入りたいねという話

何が原因かはわからないが、昨日からすこぶる体調が悪い。永遠にうまく足に力が入らない上、頭の奥でエンドレスに蝉が鳴いている。うるさいにも程があるのでお引き取り願いたい。
そんなわけでフラフラ(当社比)で最寄り駅から家までの一直線を歩いていた時のことだ。プールに飛び込みたく思った。
勿論制服のまま。
蒸し暑い空気と周りのガラスの反射、ついでにアスファルトの照り返しなんかも頭が茹だる原因だったかもしれない。あとついでの体調不良おそらく心因性。念の為の病院は来週中に探す予定。
一度考え出すともうそればかりに頭が占められてしまった。
プール。
水泳は好きだ。体育は苦手で嫌いだし、基本的に運動なんかできたものではないけれど、水泳だけは昔習っていたからか苦手意識があまりない。下手だけど。
その日の最初に水に足をつけた時の冷たさも、泳ぐときに耳の横でゴポゴポ鳴る呼気の泡も、プールサイドに上がったあとのコンクリートの感触も、何より、水に潜って目を開いた一面きらきらした青の世界も。
でも、水着だから。
中2くらいの頃から日焼けを気にしていた。今だって気にしているのでうちの学校の屋外プールの上に屋根がついてくれないかと延々言っている。実現はしない。
水着だから。
嫌いで仕方ない自分の体のラインを否応なく晒さないといけない。
誰も見ていないだろうけれど、自分は気になる。
そしてそんな自分が、いちばんそれを見たくないと訴えている。
そんな考えを毎年の夏に背負っている。
そうして、ふっと浮かんだのだ。
制服のままでプールに飛び込みたい。
背中からでもいい。足からでもいい。
この重たいカーディガンは脱いで、目印に腕時計を上に乗せて。
ハンカチとティッシュを入れるだけで歪になるのをわかっていながら定期やスマホを放り込んでいるスカートのポケットも空にして。
ポニーテールも前髪も触角もそのままで、コンプレックスを誤魔化すためのメイクもそのままで。
半袖のブラウスの袖はしっかり整えて、校章を外して、いつも開けている第一ボタン、もうひとつ、第二ボタンまで襟を開いて。
プリーツの少ないダサいスカート、萎びて緩くなった折り目も短くするために巻いたウエストも気にしないで。
黒の膝丈ソックスも、履き慣らしてクセのついたローファーも履きっぱなしで。
そうやって、一思いにあの白い淵を乗り越えてしまったら、どれだけ気分がいいだろうか。
きっと大きな水飛沫が立つのだろう。
髪はぐしゃぐしゃだろうし、服はべたりと肌に張り付くし、メイクなんてドロドロだろう。水泳部の人には申し訳なさしかない感じになりそうだ。
それでも、きっと楽しいのだ。
きっと、これ以上なく青春を謳歌しているのだ。
私は水中で目を開けられないから、水の中から空を見れたりはしないし、バーガンディのマスカラで長く長く伸ばしたまつ毛が残念なことになる顔しか出来ないだろうけど。
制服のままで、女子高生のままで、あの水色の、きんと澄んだ塩素の香りに包まれてみたいと、そう思った。
なんというのだろうか、こういう感覚。
太宰的少女性、とでも言っておこう。
今日のアイスはレモン味だ。

人生エラー

カフェイン依存系鍵垢在住底辺字書きの墓場

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