長い袖と非日常
成人式あらためはたちのつどいのために振袖を着た。高校時代と比べ服用中の薬の副作用で激太りしたため鏡を見た感想はかなしいかな「どすこい」であった。しかし散々迷って決めた大柄の月下美人は振袖の中で美しく咲き誇っている。モード系と言うのか、ほぼモノトーンの振袖に帯揚げなどで若干色を入れている状態である。これで私が細ければもっと美しく決まっていただろうになぁ、と思う。夜の同窓会に着ていくパーティードレスも自分が着た時の見栄えがどうにも心配である。
成人式が終わり、旧交を温めるために色とりどりの振袖が塊になって点在しているのは見ていて鮮やかでいいなと思った。
相変わらず外は寒くて、現実は面白くなくて、気が重い。自分も成人してしまったのか、と思う。もう酒を飲んだことだってあるのだから何を今更、とは思うが。
ふと空を見た。青かった。午前は曇りだったのが、今見ると見事に晴れていた。
スマホのカメラを向けてみた。軽い音を立ててシャッターを切る。誰も私を見ていない中で。
写真となって切り取られた雲のある空を眺めていると、綺麗な青だなと思えた。
私の目に映る世界はクソッタレだが、写真になると美しくなったりするものである。知ったこっちゃないが、切り取られ時間をとめたその瞬間にしかない何かが見えない形で現れるのだろう。
肩にかけた白いショールが風で揺れるのを首筋で感じながら慣れない履物で痛む足を気にしていた。
きっとこの後は一人で家に帰って、また着替えて、家にいる家族とお茶を飲んで、そんな日常に戻るだけ。同窓会が終われば買ったドレスとボレロも日の目を見ない。
まだまだ未熟だなぁと思うと同時に、大人になってしまったものだなあと思う。
無条件になにかに甘えられた頃が懐かしく、羨ましく、少し感傷的になる。
自分に無限の可能性なんてないと知った時。
成長とは諦めの言い換え表現だと気付いた時。
辛かった出来事が知らぬうちに過去になっていた時。
創作しなくても息ができることに気がついた時。
夢を諦めるという選択肢しか目の前になかった時。
色々なものを経て今ここにいて、色々なものがこの先に待っていて、と思うと、どうにも死にたくなる。自分を傷つけて憂さを晴らして安心する癖はまだ治りそうにない。
ちゃんとした人間にはなれなかった。
一念発起して真人間になるにも道のりが遠すぎる。
目に映るみんながみんな、自分とは違ってまともに思える。
自分だけが異常で、自分だけがまともじゃなくて、と思うと気が狂いそうである。
すれ違ったチワワの黒く丸い目が光っているのが少し羨ましかった。
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